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2007.09.11

やりくちはたった一つ。

あの時

僕を救ってくれたのは

バグダッド・カフェのジャスミンの巨躯だった。

あの時

僕を救ってくれたのは

ガタカのユージーンの孤独な天才の車椅子姿だった。

あの時

僕を救ってくれたのは

コインロッカー・ベイビーズのキクとハシのさやわかな暴力だった。

あの時

僕を救ってくれたのは

花京院典明の孤高な友情だったし

はじめの一歩のデンプシーロールだった。

どうやって僕を救ってくれたのか

感動?興奮?悲しみ?共感?せつなさ?

いやいや

みんなやり方は共通していた。
僕の救い方は皆同じだった。

やりくちはたった一つ。


KILL TIME


僕の空虚をとにかく埋めるというやりくちだった。

喪失感は時間という奥行きを持ち、それは、ためしに石を落としても
一向に底に跳ね返る音も聞こえないほどに深く感じられた。

たった百分や二百分のビデオテープや
たった数百ページの紙の束は

僕の心に入り込むと、えらいスピードで膨張してくれた。

そして

僕の心は

心温まるドラマだろうが
悪趣味な暴力だろうが
せつない悲劇だろうが
たんなる喜劇だろうが
さわやかなスポコンだろうが

皆一様にどん欲に吸収した。
まるで食欲があるかのようにどん欲に。

生きるためなのか
死ぬためなのか

生を長らえるためなのか
死に一歩でも近づくためなのか

ともかく、埋め尽くすために

僕は物語を摂取し続けた。

だから、実はあらすじなんかを語るのはそれほど得意ではないのだ。
僕の心はそれをあらすじや原型のないほどに消化してしまうのだから。

だから、僕は文字の力をかりてそれらを記すのです。

せめてものなぐさみに。

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