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2007.11.23

ヘリウムネオン




当時、僕は暗闇の住民だった。

アルゴン

ヘリウムネオン

赤色発光ダイオード



彼らの感応しない波長のなかで

僕らの眼球の言う光を感じる事のない光源の下。

人間の暗闇という表現の薄っぺらさを感じながら。




僕らの暗闇は

彼らの感応領域で、

彼らが僕らのいう暗闇にさらされたなら

グジグジ


 

と火傷を負うように、反応し、彼らは彼らの皮膚に画像を刻み付ける。

暗闇に数時間いると

部屋は無限に広くなり、それに圧迫される。
部屋は次第に小さくなり、静寂が無遠慮に口々に騒ぎ立てた。

時間は炭酸をなくしたダイエットコークのように平坦で
時計は永遠に壊れたようであり。
時計の針は音速で逆走しているかのように一本の長い糸に姿を変える。

そこは東陽町の地下2階。

「使用中」の赤いランプを消し

誰もいない、ベンチにもたれ、80円のホットコーヒーをすする。

遠くで

ポーンッ

とエレベーターの到着する音がする。

違う階の音まで聴こえる静寂が寒々しい。

現像液で汚した白衣をスーツの上からかぶり、

ああ、会社にきてから、「おはようございます」以外に誰とも話して
いないことに気づく。


きっと大地震がきて、

ここにひとり取り残されても

きっと誰も僕に気付きはしないだろう。

そう思った。

悲しみも、空しさもなくただ、そう思った。




数ヶ月

僕はあらゆる光源という暗闇に包まれて

それは、僕らの世では極彩色の虚無と呼ぶのにふさわしいのだけれど


僕は孤独に包まれて

僕は孤独を忘れていた。


ありとあらゆる光源は僕から

涙を干涸びさせ

ありとあらゆる光源は僕から

思考も、思索も、切なさも、よろこびも

すべてを干涸びさせていた。

現像機の

ゴウンゴウンとういななきと

現像液と定着液を水をむさぼるように飲むような補充の音。

僕はあのときはじめて虚無に抱かれた。

そんな閨での行為の最中で

きっとなにかを奪われて
きっとなにかを埋め込まれた

僕の目は最早焦点なんて必要をなくしていた。

僕の脳は最早思考の様式を何一つ必要としていなかった。

僕は口の使い方もほぼ忘れていた。

フランスやアメリカ ロチェスター、メキシコから。

喜望峰なんかを経由して。

彼らははるばるこの島国にやってきて

僕の虚無の輩となる。

当時、僕は暗闇の住民だった。
当時、僕は虚無とかりそめの愛を交わした。

その後には

虚無さえ残らぬ空虚が、空白が僕を待っていた。

そこには

孤独なんて格好のいいものではなく

単なる寂しさが

僕を待っていた。

そして、僕ははっきりと気付いたのだ。

こうして人生は続いてゆく
それでも人生は続いてゆくのだ、と。

25才の冬のこと。

僕は人知れず殻を脱ぎ捨て、あらたな殻を身につけていた。





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