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2007.12.29

共感は周辺、空虚はその中に、悲しみはその頭上。




仕事でのどたばたがすぎ、帰途。


携帯が鳴る。



おそるおそるながめると、懐かしい名前。


きっと着信履歴が1万回分あってもでてこないような。


懐かしい女性から。



数日前にも、別の懐かしき女性からメールがあり、


なんですかね


冬だからでしょうか。




「元気?」




「時々元気で、時々元気がなくて、たった今、電話している僕は元気。」




「ところで、そっちはひどいね、その声で元気だったら
 持ちうる元気自体が元気ないんだな」




「う〜ん、そんなのかな」




だいたい、僕に電話をかけてくることで、

そのへこみ具合がわかる。


切羽詰まった緊急の用事であれば、もっと身近で状況がわかるヤツに
連絡をとるはずだ。


そういうことなら、「原因ー結果」をシェアできる人員としては僕は不適切だ。


僕には今、彼女の診察もできなければ処方もできないのだから。


もっと軽い感じだったら飲み友達で十分だ。



誰かに切られた切り傷でもあるまい。


それはぢくぢくくるタイプのヤツだ。


レントゲンでもわからないような。


そしてそれは


積極的に解決する、というものでもない。


そいつは影のようなもの。


古今東西、影を切り離して幸せになったなんて物語は聞いた事がない。




「ずっとなりたいと思っていたものに
 ほんとうになりたいのかわからなくなったわ」


それは、きっと彼女の今、の状況に関係しているだろう。
だけど、それがメインではない。


影の構成要素は、


全てが原因であり、全てがそれに付随する、そしてその付随物全てが原因。



確実に言えることは



彼女はこの電話で、その正確な自分の状況、気持ちなんていう彼女の中身を
表現できないだろう、ということ。


それだったら、僕に電話してきた理由もわかる。



僕にできることもなんとなくわかるんだ。



シェアすること。


お互いの時間をシェアすること。


それは時間の長さでもなく質なんて大層なものですらないかもしれない。


本人がわからない悲しみに
本人がわからない怒りに
本人がわからない不安に

寂しさに
切なさに



勝手なこちらの周波数で感じ取ってはいけない気がする。


そんな悲しみに僕の悲しみをぶつけてみても
そんな怒りに僕の怒りをぶつけてみても
そんな不安に僕の不安をぶつけてもても



ぼくの寂しさを
ぼくの切なさを


その中にあるのは空虚でしかないんじゃないのか。




「ありがとう、もう大丈夫。なんだか元気になったみたい。」


彼女はそう告げる。


そんなわけはない。



ただ、僕らはこんな会話の締め方をそれくらいしか知らないだけなのだ。



「元気になったよ」って。




それが痛いほどわかるから



「いや、今晩は沈んだままだな、賭けてもいい。
 美味しいお酒でも、不味く飲んでなんとかやりすごすんだね、ヒヒヒ」



と、軽口を軽い調子で発してみる。


にしても

ホントウに状況をしらないという彼女との距離と



昔一緒にいた時との時間の隔たり





それが大人になるということなのかと



いたたまれなくなり



僕はタイミングよくやってきたバスに駆け込む。




その周辺から、逃げ出すように。





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2007.12.16

風の即興、鉛の旋盤

今日は

親父の墓参り。

誕生日まではまだはやいけど、忙しくなりそうなので。

いつものように

有吉佐和子の墓の前をすぎ、

赤、黄と茂る庭をすぎると

空がひらける。

風が待っていたかのように吹き付ける。

見上げると

鳥が一羽。

風に乗る。

右から左から上から下から、全方位から風によって紡がれた空に。

そんな即興を気持ち良さそうに。

そんな即興を

楽しむかのように旋回をくり返している。




僕は墓前で手を合わせる時

基本的に

なにも考えていない。

それはお祈りでもないし
それはなにかの報告でもない

単なる挨拶程度のものでしかない。

墓を参ろうと思った時に、その要件の大半は済んでいるから。
故人とのコミュニケーションの良いところっていつでもどこでも。


墓前で手を合わせるのは、その締めのようなものだ。
気軽な関係を形式で様式で締める、そのためだ。

だから、滞在もものすごく短く、事務的だ。

その短時間の滞在の大半は掃除清掃に費やされる。

今回もそう。

手を合わせている最中

墓石についた鳥の糞をぬぐってやったぜ、とえらく恩着せがましく。

ただそれだけ。

供え物も、タバコは普段タバコを吸わない自分がぎこちなく吹かすのが
面倒だったから、今日は黄桜で。

墓場を後にする時の足取りはいつも軽やか。

墓参り全員がセンチだったら、辟易でしょう?お父様?ご先祖様?
愁嘆場は必要ないでしょ。

空を見る。

即興のダンスをしていた鳥は

もう

もちろんそこにはいやあしない。

ただ、

親父。

いつか、あなたと過ごした歳月を

こうやってあなたの墓を参る歳月が追い越す時がくるんだぜ。

さすがにそんなこと、あんた、考えてもみなかったろう。

そんなことをふと考えると

軽かった足取りに

その一歩一歩の足跡に

急に

時の重しを感じる。

鉛色の

鳥のいなくなった空は

時計仕掛けのような、オイルと鉄の匂いがする。

ギシギシ

ゴウンゴウン

カチカチ

チクタクチチチ

特に、そこは、何代にもわたる鎖が、地中から伸び、

空を縛っている気がしてならい。

僕は

鳥のいなくなった空に

さっきまで風に紡がれていた軽快な織物が

一人では決して動かせない、
時の旋盤を感じられ、

僕のちっぽけな生が

そんな機械仕掛けに生かされている

妙な気分を感じ、

コートの襟をたて、足早に。

さっき感じた代々の絆はいかつい鎖に形を変え、

僕どころか、世界を縛る。



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2007.12.09

盲目のカメレオン

逃亡の旅の途中。

一匹のカメレオンは、仲間たちとはぐれてしまった。

追っ手は執拗に迫り

一人が二人

二人が四人

十人、二十人と増え続ける。

砂漠では

奴らは世の中の砂を全て吸い込んでしまえるような掃除機で

森では

奴らは闇をも焦がすような火炎放射機で

街では

奴らは全てを平にしてしまうシャベルカーで

彼を暴き続けた。

その度に、裸で寝ていたベッドを襲われたように、慌てて服を着るように
色をくるくる変えては彼は逃げ出すのだった。

そして、とうとう世界の果てまで逃げてきた、そう思う景色に彼は出会った。

彼はにやり、と無限の逃走経路を見つけた必勝の勝利感にひとまず酔ってみた。

見上げる限り、そこは

見渡す限り、そこは

だった。

青、青、青

見た事のない広さだった。
いつもはディティールにこだわる彼だったが、そのスケールに、眺めるに始終していた。

我に返り

その青がなんなのか、確かめよう、と思った時

またも一人の追っ手の声が。

彼は

急いでその青に飛び込んだ。
それがなんなのか調べもしないで。

それは異様に塩辛かった。

彼の良く働く360°どこでも見渡せる自慢の目との相性は最悪だった。

痛さでいつもの倍は彼の目は動き続けた。
自分の目によって目がまわるくらいだ。

思わず、長い舌を出してしまう。

それも最低だった。

カラスギショウジョウバエなんかよりよっぽど塩辛かった。

しかし、それをいやがりもがくと白いしぶきがあがる。

格好の目印になってしまう。

彼はそのうち気を失ってしまった。

岸では

奴らがいくらでも吸い込むポンプで水を吸っていたが、淡水仕様だったらしく、機械をけりつけては
ビールを用意してバカンスをきめこんでいるところだった。

彼らはビールの方が飲むのに適していると知っていたのだ。

・・・

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2007.12.01

からみからまれからみとる



福をかっこむ熊手に呼ばれて

福よりさきに人が集まる。

柏手をかき消すほどの威勢の良い手締め。


シャンシャンシャン
シャンシャンシャン
シャシャシャンシャン

ははは

みんな、神頼みよりも積極的に

シャシャシャンシャン!

のってのせられ
買って買わされ交わされる

その一切が

花園神社を包む。

見せ物の由緒を語るおかしな見世物小屋。

歴史ある正しき由緒がいかがわしさを加速する矛盾が楽しくて。

あの、

だまし、だまされ
含まれたそんな意味の共犯関係が

蛇女
頭が2つある赤ん坊。

あの絶妙なスパイスがあれば日本は大丈夫。

軒に出ている屋台にこしかけ、

威勢のよいおかあちゃんと
足下もおぼつかないダメ亭主。

あの微妙なバランスがあれば日本は大丈夫。

神社をあとに暖をとりにスターバックスへ。

ところが閉店。

寒くて寒くて。

その3F

寒さがあと押す扉押す。

カウンターバー。

女だった旦那さん
男だった嫁さん

切り盛りしている艶っぽさで。

外の寒さも手伝って

そこはあたかも暖かい乗り合いの客室のようで。

悲しい孤独を助けてくれる、明るい打算が

なんだかうれしいよ。

矛盾をこっそり店員にわからぬようにすっと懐に。

そんな共犯関係。

「なんでそんなもの盗んだのよ」

「だって、君も盗んでいたからさ」

笑顔と涙との絶妙なグラデーション

さらにそれをもう一回。

涙を笑顔にかえる、そんなグラデーションを。

さあさあ夜も更けました

さあさあ。

さあ。

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