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2008.01.25

Snow crystal , flake , crystal.

 


 
 

  雪の結晶の研究を始めたのはもう五年も前の話であるが、
  あり合わせの顕微鏡を廊下の吹き晒しの所へ持ち出して、
  初めて完全な結晶を覗いて見た時の印象はなかなか忘れ
  がたいものである。
  水晶の針を集めたような実物の結晶の巧緻さは、普通の
  教科書などに出ている顕微鏡写真とはまるで違った感じ
  であった。
  冷徹無比の結晶母体、鋭い輪郭、その中に鏤められた変
  化無限の花模様、それらが全くの透明で何ら濁りの色を
  含んでいないだけに、ちょっとその特殊の美しさは比喩
  を見出すことが困難である。
  その後毎日のように顕微鏡を覗いている中に、これほど
  美しいものが文字通り無数にあって、しかも殆どが誰の
  目にも止まらずに消えていくのが勿体ないような気がし
  出した。
  そして実験室の中で何時でもこのような結晶が出来たら、
  雪の成因の研究などという問題を離れても、随分楽しい
  ことであろうと考えて見た。

 


 
 

           〜『雪を作る話』中谷宇吉郎〜


 
 


 

雪に無邪気に憑かれた人。


 

冬山を見て、ここ数時間降り続くあるひとつの結晶で、その
重なり合いでその冬景色が形成されていると想像できる感受
性を持ち合わせている詩人。


 
 

今日は中谷宇吉郎を読むにもってこいな日だ。



 

結晶によって


 

雪の降る音は違うのだろうか?


 

結晶によって


 

雪の積もる音は変るのだろうか?



 

雪は視界を悪くするくせに
その優雅な舞いは、世界に奥行きを持たせてくれる。


結晶によって


 

雪の降る音は違うのだろうか?


 

結晶によって


 

雪の積もる音は変るのだろうか?


 
 

降り注ぐ音と
降り積もる音と


 

沈黙で蓋をして

寒々しいベッドを用意しよう。


 

そして


 

羽毛のように軽やかな凍てつく毛布で


 

心も頭も身体も

包んでしまおう。


 

ダレニモジャマサレズニ


 

大好きな思い出に独り身を委ねよう。


 

今日買った花は


 

なんだか雪が似合うんだ。


 
 
 

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2008.01.21

そこには流れも竿もないというのに








凛としている。




あるものは

鋼の肉体を誇り

あるものは

黄金の頭脳を持ち

たとえ、凍える大地に独りきりでも。

銀色の微笑みを絶やさず。

たとえ、残酷の突風にさらされても。

先にすすむ勇気を忘れずに。

密かな残酷さを
臓腑の生暖かい、臭気を纏い。

果敢に
人を裏切り
人を愛する

ページという時間軸と
読者から彼方の遥かな世界の時間軸を。

律儀に生真面目に。
奔放に高らかに。

過去を未来を立ち回る。

・・・

僕は昨日

結果よりも約束を大事にするふたりの消滅を見た。
彼らは
時間と空間とすべての間に間に、散りとなって消え失せた。
約束を、二人の絆を数ページ前に残したまま。

彼は
鳴き砂の上を独り歩いていた。
愛情を胸に。
約束を頑に消えた彼女が残していった愛情を胸に。
もう二人を結ぶことのできない、ほどけぬ絆を胸に。

・・・

本の住人は

僕にはひどくずるい存在に映る。

なぜ彼らは

綺麗に残酷なのだ


なぜに彼らは

潔く、与えられたロールを生きられるのだ。

貫き通せるのだ。

時に

愛に犠牲にし
愛を犠牲にし

貫き通せるのだ。


僕は

情や愛や体面や意地や

それら全てを川に流し、もはや

情に流される流れもなく
竿さす竿もなくしてしまっている

というのに。

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2008.01.06

風船ガムを噛むと必ず感じる軽い罪悪感。



僕にはできないことがある。
僕にはむかしっからできないことがある。



今までもできなかったし
これからもきっとできない。



みんなこういうことあるのだろうか?



そして、あるとしたらふい、とした間に


それについて
それができないということについて


あれやこれや考えるのだろうか。



・・・





口笛を吹くこと


風船ガムをふくらますこと


ペンを手の上でまわすこと



・・・

口笛が吹けないから、たしかに気取ってとぼけるわけにはいかない。
頭の後ろで手を組んで、「知らないよ」とおどけて口笛をふく、あれができない。


風船ガムをふくらませないが故に、風船ガムを噛むと必ず軽い罪悪感を感じる。
風船ガムの見せ場をぶちこわしているあの感覚。


ペンまわしができないので、試験中にリズムが刻めない。
内輪のミーティングのあの膠着状態をなんとなしに切り抜ける場を作れない。



・・・



なぜ、それらを習得しないで


平気でいられる少年だったんだろう。



・・・




ジジジッ



ジジッ



ジッ



思考を中断させる蛍光灯の発する最後の音。


まるで風船ガムがぱちんと割れたように。。。



あれ


思考の中断をもたらした暗闇はしかし、連鎖をやめてなんてないじゃあないか。



・・・



なぜ、それらを習得しないで


平気でいられる少年だったんだろう。



・・・



むかしっから


お気に入りの服をいつもそればっかりを着る癖があった。


お気に入りのスニーカーをいつもそればっかりを穿く癖があった。



・・・



そんなことばかり電気の切れた部屋で考えていると


案外


僕はむかしっから僕なのだ。


ということに気付いた。



・・・



むかしっから


マフラーを巻くのが下手だった。


リボンを結ぶのが下手だった。


ゴミ袋を縛るのが下手だった。


むかしっから。


むかしっから。


これからも。


みんなこんなふうに考えたりするのだろうか?



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