喜劇の悲劇
頭はとうに禿げ上がり
重力と結託した肢体をゆさぶり
膝はすれ上がり、肘はてかてかに艶がでつつある一張羅は
まるでずた袋のように彼を包んでいるようだった。
華麗な貴婦人の隣よりは確実に部屋の隅にある
ひかえめで薄汚い緑色の椅子のほうがしっくりきた。
彼はちょっとした喜劇役者だ。
みすぼらしいなりと
完璧に低俗をあしらった笑顔を武器に
40年!
喜劇を演じ続けていた。
40年!
その間に、
頭髪も、申し合わせたように、その劇の舞台から退場し
芸の年輪のように脂肪が幅をきかせていたのだ。
ちょっと派手な芸をすると
額と口の下に汗がにじみ
需要と供給のバランスがくずれた呼吸器系が黄色い色のついたような
息を、聞くに堪えないようなあえぎといっしょに、吐き出す。
さらにおぞましいことに
満腹なわけでもないのに口からはゲップがもれる。
「それはねえ、君。
人様に食事をするところを、食物を咀嚼するところを見られるってのは
あれだ、
夜のスケベな行為を見られるくらい
あれだ、
破廉恥なことだって言うだろう?
ゲップはその破廉恥に破廉恥のソースをさらにかけてるような
もんさ。
そこまでさらけだしちゃうとね、観客も
あれだ、
観念しちまうんだよ。」
・・・
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