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2009.03.09

トランペットとマネキンは同じ色をしていた。




いつのまにか



空が沈黙というものに取って代わられていた。
鳥が飛べなくなってしまって始めて皆その異変に気付いたのだった。
それは何世紀か昔のシャンパンゴールドのような色味だった。
それは共鳴音を出す間際の金属のような緊張を称えていた。



それは打楽器のような、例えばドラムのような地に属する音ではない。
腹の底に響くヤツではない。



それはもっと高音で耳にくるヤツに違いない。
それが始まってしまったら
元空だったものには断層ができ、雨の代わりに我々に降り注ぐだろう
と容易に想像ができた。
ただ、それは硬いのか柔らかいのか、熱いのか冷たいのか。
降り注ぐ沈黙は、我々にとっては比喩の世界の住人でしかなく、
それを想像する術を知らなかった。
それは空に浮くだけでなにもしてこない宇宙船と対峙している状態と似ていた。
沈黙の静けさと好対照に民衆のざわめきは大きくなってきた。



数日後



調理師見習いのせむし男が逮捕された。
手には沈黙と同じ色をしたシャンパンゴールドのトランペットを持っていた。
それを吹こうと天に向かって突き上げた時、逮捕されたのだ。
取調室では執拗な尋問が続いていた。
沈黙の緊張に耐えかねた暴徒に対するスケープゴートにしようというのだ。



「あの人に、麗しいあの人に、オレが捧げられる一番美しいものを
 捧げたかった、それだけ」



せむし男は同じ内容を拙い語彙を駆使して何百通りも繰り返すだけだった。
おどしを飲み込む知性もなく、
体罰に悲鳴をあげるほど身体も敏感ではなかった。
警察はその「麗しいあの人」に打開策を求めた。
その情報はすぐに見つけられたし、本人もすぐに見つかった。



石畳の3叉路の真ん中に、蛍光の黄色の痛んだ髪をした人がその人だった。
彼女は繊細、優雅、重厚なロココ調の素晴らしい出来の椅子に背もたれを前にして、
その歴史と気品を押さえつけるように馬乗りになって坐っていた。
その姿は粗野で厚ぼったくボンデージで締め付けられている肉はもとは
どこの肉だかわからないほどに矯正され随所にはみ出していた。
椅子は完全に彼女に組み敷かれていた。
彼女は醜かった。
ただし、そんな個人の感想レベルの感性なんてこの場で役に立たないくらい
彼女を取り巻いた警官たちにもわかったようだった。
寒いのか暑いのかわからなかった。
不快なのか快感なのかわからなかった。
ただし、その居心地の悪さの源は全て彼女にある、そう思わざるを得ない
風格を彼女は持っていた。
そんな不安定から解放されるには、彼女の前で屈辱的に見える姿で
うずくまる美男子のように彼女のとにかく慈悲を乞う以外にない、
そう思わざるを得ない妖気を彼女は持っていた。
それは素晴らしいボンデージ姿だった。



「どうせ、あいつは「お前の一番醜いとこはその醜い姿に隠れてる貧相な心だ」、
って言ったことについてうれしがっているんだろ?」



「あいつの性感帯は姿形以外ならどこだって。ウブで敏感なのさ。」
「滑稽で哀しいだろ?」



麗しき人は、左手にもっていた鞭を高々と振り上げ、首輪をはめられ、
全裸でうずくまっている男に振り落とした。
それは奇怪なほど高音で哀しい音で周囲を切り裂いた。
それは沈黙に傷をつけ、
沈黙は涙となって世界に降り注いだ。



沈黙が剥げた後にはがらんどうがあるのみで、
世界は涙で溢れた。



世界遺産の水中都市には
何世紀か昔のシャンパンゴールドのような市民の像がここかしこに散乱しているが、
それは寂れた地方都市のデパートの裏側にほおり捨てられたマネキン風情でしかなく。
たちの悪い現代アートのくずのようでしかなかった。



沈黙も哀しみも

すでにシャンパンのアルコールのようにとっくに飛んでしまっていた。




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