オークと葦
一面僕より背が高い葦に覆われていてた。
風が吹くたびに
葦は揺れることで風の姿を映し出していた。
その葦から次の葦へ。
その先の葦へ。
風はその足跡をつけ、
その姿がどこまでも続くことによって
一面が遥かまで葦に覆われているという帰結に達する事となる。
そして
風が一緒につれてくる
湿気と、すえた有機的な匂いが
沼の存在を示唆していて
自然というロジックがうむ美という体系を想像させた。
僕は耳を澄ませてじっとしていた。
風のようにたゆやかな葦のセッションではなく
もっと乱暴で局地的なノイズを拾おうとやっきなのだ。
彼女が動くことで葦がその場所を教えてくれる兆しを。
僕は見失っていたのだ。
彼女は唐突に僕の前にあらわれた。
白いワンピースは葦とともに軽やかに揺れていた。
その足はそれこそ葦のようにしっかりと土をつかみ。
その髪は
どちらが先に誘惑したのだろう。
風と戯れていた。
ジャン・ド・ラ・フォンテーヌの寓話「オークと葦」の
傲慢なオークと軽やかな葦の対比を持ち出すまでもなく
僕は彼女に御しきれない美しさを感じていた。
僕の「思うがまま」なんて
いささか性というスパイスがききすぎな陳腐な代物だけれど
僕は彼女に「思うがまま」にできやしない
と感じていた。
彼女の一番印象的な部位は目だった。
その目は敵愾心とも興味ともとれる強い光を僕に向けていた。
僕は彼女を探るように
彼女の瞳の色を見定めてやろうと半歩彼女に近寄った。
ザザザッ
一斉に葦が警戒音のように騒ぎ立て
彼女はその中に消えた。
僕は見失っていたのだ。
僕らの言う意味ってやつを。
風と彼女が葦にのせ、
僕から凝り固まった僕から
それを奪いさってくれたのだ。
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