写実:サラエボ墓地の雪
雪が大地を覆う中
墓標は佇む。
まるで、いたずらをして廊下に立たされた少年のように
いたずらの時の快活さはとうに忘れてしまった背中のようだ。
墓標は主張している。
名前やら
生を刻んでいた時間やらを。
いつも墓標をたてる時、
なぜだろうね
他の墓標は風景となる。
はっきり境界を作って
風景となった他の墓標を消し去る努力を、人はするのだ。
自分たちの葬った人以外
かまってられない。
きりがないのだ。
そうやって差別をして、
あたりまえのように僕らは祈るものと祈らないものを作り上げる。
雪が大地を覆う。
土地の区分けが見えなくなり
ランダムに墓標が佇んでいるように見える。
すると
僕らが区分けた境界などなくなり
意識は土の中へ。
僕らの愛した人も
誰かの愛した人も
土の中で分解され
境がなくなる。
名前も、皮膚も、背景もなく
等しくつちくれと化す。
故人を窮屈な区分けの中に押し込めているものは
僕らの勝手な通念でしかない。
彼らはとうに、ほら、自由だ。
解放され、どこまでも。
雪はそのうち沁み入る。
昔
僕らの愛した人だった
誰かの愛した人だった
大地へと
分け隔てなく。
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